インターネット上のQ&AサイトやSNSの書き込みを見ると、「退職後に会社へ請求すれば、労働基準法によって7日以内に退職金を支払わせる権利がある」といったアドバイスが散見されます。しかし、労働法務の専門家の視点から検証すると、これは重大な誤解を含む危険な言説です。
たしかに労働基準法第23条第1項には、「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない」と明記されています。この条文だけを根拠に、退職翌日に会社へ内容証明郵便を送りつけ、「7日以内に退職金を振り込め」と迫るトラブルが後を絶ちません。
ところが、厚生労働省の行政通達(昭和22年9月13日発基17号など)および確立された最高裁判例では、労働基準法での支払い期限(7日以内ルール)が退職金にそのまま適用されるわけではないと明確に解釈されています。浅野総合法律事務所の労働問題弁護士ガイドでも指摘されている通り、退職金は「就業規則や退職金規程によってあらかじめ支給時期が定められている場合、その規定された支払時期に支払えば足りる」とされているのです。たとえば自社の就業規則と退職金規定に「退職金は退職日の属する月の3か月後の末日に支給する」と記載されていれば、たとえ退職者が退職翌日に請求を行ったとしても、会社は3か月後の末日まで支払う法的義務を負いません。労働基準法第23条の「7日以内」が強制力を持つのは、あくまで「就業規則に定められた支給日が到来した後」に請求した場合に限られます。
さらに見落とされがちなのが、自己都合退職と会社都合退職の違いによる算定期間と支給額のギャップです。会社都合(整理解雇や事業縮小など)の場合は勤続1〜2年でも満額ベースで迅速に計算されることが多い一方、自己都合退職では「勤続3年以上」を支給要件としていたり、自己都合減額率(乗率0.5〜0.8など)が適用されたりするケースが一般的です。加えて、退職前の有給休暇消化中に「競業他社への転職が発覚した場合の減額・不支給条項(懲戒事由の有無)」を精査するため、法務・人事部門の確認作業が長引き、結果として会社都合よりも振込が遅くなるケースが少なくありません。