本来であればチベット奥地の専門的な学術文献の中に留まっていたはずの希少種が、なぜこれほどまでに日本の大衆文化へ浸透したのでしょうか。その歴史的転換点は、英BBC制作のドキュメンタリー番組『プラネットアース』の映像が日本へ輸入され、NHKの自然科学番組『ダーウィンが来た!』などで紹介された2000年代後半から2010年代に端を発します。
決定打となったのは、大手飲料メーカーが展開した「カルピス」のテレビCMシリーズでした。甘酸っぱい青春の告白シーンや若者の葛藤の最中に、突如として画面いっぱいにインサートされるチベットスナギツネの微動だにしない顔面。「なんとも言えない空気」を象徴するリアクション役として起用されたことで、野生動物の枠を超えて一躍国民的なコメディ・アイコンへと昇華しました。
SNS上では、無表情でカメラを見据える著名人やクール系アイドルの静止画とともに「チベットスナギツネに似てる芸能人」を挙げる大喜利が定番化。元プロボクサーの具志堅用高氏の現役時代の鋭い眼光や、個性派俳優のミステリアスな佇まいと重ね合わせる投稿が数万リツイートを記録するなど、共感性の高いミームとして定着しています。
2026年現在では、大手雑貨チェーンやホビーメーカーによるぬいぐるみ、マスコットキーホルダー、カプセルトイ(ガチャガチャ)などのオフィシャルグッズが定番ジャンルを確立。デスク周りに置くことで「他人の余計な言動に動じない自分を保つお守り」として購入するオフィスワーカーが急増しています。