道端で見かける猫の耳に刻まれた小さなV字の切れ込み。これには明確な理由が存在します。結論から言えば、不妊去勢手術(避妊去勢手術)が完了していることを遠目から瞬時に識別するための不可欠なサインです。
外で暮らす飼い主のいない猫に対しては、これ以上の望まれない繁殖を防ぎ、殺処分数を減らすために「TNR活動」が実施されています。TNRとは以下の頭文字をとった国際的な動物福祉活動です。
- Trap(トラップ):捕獲器などで安全に保護する
- Neuter(ニューター):動物病院で不妊去勢手術を行う
- Return(リターン):元の縄張りに戻し、地域で見守る
猫は非常に警戒心が強く、捕獲作業は猫にとっても人間にとっても極めて大きなストレスを伴います。もし耳に目印がなければ、すでに不妊去勢手術を終えた猫が再び捕獲器に入れられ、動物病院に運ばれてしまう事態が避けられません。特にメス猫の場合、開腹手術の痕跡は毛が伸びると外見からは判別できず、「麻酔をかけてお腹を切り開いたものの、すでに卵巣や子宮が摘出されていた」という痛ましい再手術リスクが生じてしまいます。そうした医療事故や過度な精神的ストレスから猫を守る唯一確実な識別法が、遠くからでも双眼鏡や肉眼で確認できる耳先カットV字なのです。
日本国内でこの啓発を大きく牽引してきたのが、公益財団法人どうぶつ基金です。同基金が発行する無料不妊手術チケットの普及とともに、耳先を花びらのようにカットされた猫は「さくらねこ」、その耳は「さくら耳」と名付けられ、親しみやすい愛称とともに全国的な市民権を獲得しました。環境省の統計資料を紐解くと、全国の犬猫殺処分数は2010年代初頭の年間十数万頭規模から劇的に減少し、直近2024年から2026年にかけても最少記録の更新傾向が続いています。この背景には、地道なTNR活動とさくらねこの定着が大きく貢献しています。