非常時の走行能力に関して、利用者が最も気にかけるのが「実際に何キロ走れるのか」「どれくらいの速度が出るのか」というスペックの実態です。結論から言えば、このシステムは目的地である東京や新大阪まで通常運行を続けるためのものではなく、あくまで危険地帯からの脱出を目的としたレスキュー機能として設計されています。
走行性能の公称値および公式走行試験データによると、N700Sバッテリー走行速度は時速約30kmに制御されています。低速に見えるかもしれませんが、16両編成で総重量約700トンに及ぶ巨大な列車を蓄電池だけで動かすエネルギーを考慮すれば、極めて現実的かつ効率的な推進設計です。
そして注目のN700Sバッテリー走行距離ですが、公式発表資料や性能確認試験のデータでは、平坦区間から緩やかな勾配を含めて数キロから10キロ程度の自走が実証されています。東海道新幹線において最も長いトンネルである新丹那トンネル(全長7,959メートル)の真ん中で完全停電に見舞われたとしても、自力でトンネル外の明かり区間(シェルター外)まで確実に抜け出せる計算です。
さらに、蓄電池の電力は走行モーターだけでなく、非常用換気装置、客室内の緊急照明、車内アナウンス放送、トイレの汚水処理ポンプなど、乗客の生命維持と環境維持に直結する補機類へも供給されます。立ち往生した車内が酸欠や熱中症の危険に晒されるリスクを、物理的に回避する二重三重の安全網が敷かれています。