圧力鍋を使っても豚の角煮が硬くなってしまう現象には、明確な科学的理由が存在します。主な要因は「タンパク質の熱変性」「浸透圧による脱水」「コラーゲンのゼラチン化プロセスの不足」の3点です。
豚肉の主成分である筋繊維タンパク質(アクチンやミオシン)は、60℃〜65℃を超えると収縮を始め、内部の水分を外へ押し出します。通常加熱であれば100℃止まりですが、一般的な家庭用圧力鍋の内部は約115℃〜120℃(約1.8〜2気圧)という超高温に達します。この急激な高温環境下で肉の筋繊維は一気に収縮し、強固に凝固します。
肉をとろとろに柔らかくするためには、筋繊維を束ねている硬い結合組織「コラーゲン」を加熱分解し、水溶性の「ゼラチン」へと変化させる必要があります。しかし、最初から醤油や砂糖などの塩分・糖分濃度の高い煮汁で煮込んでしまうと、浸透圧の作用によって肉の内部から水分が猛烈な勢いで吸い出されます。結果として、コラーゲンがゼラチン化する前に筋繊維がパサパサの繊維質に干からびてしまい、「脂身だけが溶けて赤身がカチカチ」という最悪の食感を生み出してしまうのです。
したがって、圧力鍋で角煮を作る際は「調味料を一切入れずに水と香味野菜だけで加圧し、コラーゲンを十分にゼラチン化させてから、後から味を含ませる」という二段階調理が絶対に譲れない鉄則となります。