子どもが分数の足し算で激しく拒絶反応を示したとき、多くの親や指導者が「どうしてこんな簡単な計算ができないのか」と苛立ちを募らせる。しかし、スイスの心理学者ジャン・ピアジェが提唱した認知発達理論を紐解けば、小学5年生(10〜11歳)という時期は、目に見える具体物で思考する「具体的操作期」から、抽象的な記号や概念を論理的に処理する「形式的操作期」へと移行する激動の過渡期にある。
分数は「1つのものを分割した割合」という極めて抽象度の高い概念であり、記号操作だけで理解させようとするアプローチは認知発達の観点から明白な無理がある。分数の足し算わかりやすい教え方として現場で実績を上げているのは、計算手順を教え込む前に、「折り紙を折る・切る」「方眼紙を塗り分ける」といった視覚的・触覚的な原体験を徹底的に踏ませる指導法だ。
長年にわたり算数教育と学習心理学に携わってきた専門家の見解を踏まえ、学習者に応じた最適なアプローチの判断基準を提示する。
【指導・学習アプローチの適合判断基準】
- 視覚・具体物アプローチを最優先すべき人:
- なぜ分母を足してはいけないのか直感的に納得できていない児童
- 文章題になると立式が途端にできなくなる初学者
- 公式の丸暗記に対して強い抵抗感や学習性無気力を示している人
- アルゴリズム・記号操作の反復へ進んで良い人:
- 「分母=サイズ、分子=個数」の定義が腹落ちしている人
- 九九の逆引き(因数分解の基礎)が淀みなく行える人
- 就職試験や資格試験を目前に控え、短期間で計算処理速度を極限まで引き上げる必要がある大人
「分数ができない」のは学習者の知能の問題ではなく、抽象化の階段を登るための補助輪(視覚モデル)が不足している構造的欠陥に起因する。急がば回れで、概念の可視化に戻ることが確実な定着への唯一の隘路だ。