本作を語る上で絶対に切り離せないのが、2013年10月16日に両A面シングルとしてリリースされた『五月の蝿』の存在です。7枚目のオリジナルアルバム『×と○と罪と』の収録曲として並び立つ両曲ですが、その世界観の隔絶ぶりは、当時のJ-POP・ロックシーンに強烈な激震を走らせました。
『五月の蝿』は、「君の父親と母親の遺伝子を呪う」といった凄惨な言葉が並び、裏切られた相手への底知れぬ憎悪と殺意に近い狂気を叩きつける楽曲です。その一方で、『ラストバージン』は濁りのない純度100%の無償の愛と祈りを歌い上げています。なぜ野田洋次郎は、この両極端な2曲を同じパッケージに収めたのでしょうか。
関係者の証言や当時の音楽誌『ROCKIN'ON JAPAN』のロングインタビューによると、これらは別々の感情ではなく、「ひとりの人間の中に同時に存在する愛の表裏一体」を表現した試みでした。他者を激しく愛するからこそ生じる狂気的な執着(影)と、相手の幸福を無条件に願う神聖な祈り(光)。この2つを同時に提示したからこそ、『ラストバージン』に描かれた優しさは単なる綺麗事ではなく、人間の業を受け止めた上での「リアルな救済」として圧倒的な説得力を持ち得たのです。