角田大河騎手の訃報をめぐっては、競馬界の構造や当時の背景について一般に誤解されている点がいくつか存在します。事実を正確に把握するために、以下の3つのポイントを整理しておく必要があります。
第一に、「馬場侵入事件の直後に即時解雇されたわけではない」という点です。JRAが8月2日に下したのは裁定委員会の決定が出るまでの「暫定的な騎乗停止処分」であり、騎手免許の取消処分が決定していたわけではありませんでした。過去の先例から見ても、長期の騎乗停止や社会奉仕活動を経て復帰する道は残されていたはずでした。
第二に、「函館競馬場のセキュリティ体制の脆弱さ」です。夜間に外部の乗用車が芝コース内まで容易に進入できてしまった管理体制に対し、事件後はJRA各競馬場・トレーニングセンターで夜間警備とゲート管理の全面的な見直しが実施されました。騎手個人の規範意識だけでなく、物理的な防犯インフラの不備も要因として存在していました。
第三に、「スマートフォンの普及とSNSによる私生活の可視化」です。通信機器不正使用問題以降、若手騎手に対するファンの視線は非常に厳しくなっていました。些細な行動が即座にネット上に晒され、デジタルタトゥーとして刻まれる現代において、20歳前後の若者が受ける精神的負荷は昭和・平成の時代とは比較にならないレベルに達していました。