「パラオでは日本語が公用語である」という言説の法的な根拠は、パラオ共和国の構成州の一つであるアンガウル州憲法第12条第1項にあります。同条文には、州の公用語として「パラオ語」「英語」と並び、明確に「日本語(Japanese)」が明記されています。日本国外の公的機関において日本語が公用語として法的に規定されている事例は、世界中を探してもアンガウル州憲法のみです。
ただし、ここで整理しておくべき重要な事実は、これがパラオ共和国全体の国家憲法ではなく、一地方自治体(アンガウル州)の規定であるという点です。パラオ共和国憲法における国家公用語は「パラオ語」と「英語」の2言語です。
では、なぜアンガウル州は1982年の憲法制定時に日本語を公用語へと組み込んだのでしょうか。その背景には、かつて同島で栄えた燐鉱石(りんこうせき)の採掘事業をめぐる歴史があります。日本統治時代、アンガウル島には大規模な鉱山が開かれ、多数の日本人技術者や労働者が移住しました。当時の島民は日本人と共に働き、日本語教育を受け、生活文化を深く共有していたのです。憲法起草に携わった当時の長老たちが、日本統治期への敬意と、島民の多くが日本語を流暢に操っていた事実を後世に残すため、象徴的な意味を込めて条文に刻んだという経緯があります。