皮膚がんと一口に言っても、発生する細胞の起源や悪性度によってその性質は完全に異なります。日本国内で確認される代表的な皮膚がんの種類には、基底細胞癌のほかに、表皮の有棘層から生じる「有棘細胞癌」、色素細胞(メラノサイト)が悪性化する「悪性黒色腫(メラノーマ)」、高齢者の陰部などに好発する「乳房外パジェット病」などが挙げられます。
一般読者が最も混同し、強い恐怖を抱くのが悪性黒色腫(メラノーマ)との違いです。メラノーマはリンパ節や血流に乗って肺・肝臓・脳などへ急速に遠隔転移を引き起こす、極めて予後の厳しい悪性腫瘍です。足の裏や爪、体幹部などに不規則な形状の黒斑として現れ、早期の段階から全身管理が必要となります。
これに対し、基底細胞癌における転移確率は0.0028〜0.55%未満と極めて稀であり、がん細胞が血液やリンパ液に乗って他臓器に定着することは例外的な事態に限られます。そのため、病変全体を外科的に取りきれさえすれば、基底細胞癌の生存率と予後は極めて良好であり、術後の5年生存率は99%以上を維持しています。
しかし、「命に関わらないなら急ぐ必要はない」と考えるのは致命的な誤りです。基底細胞癌の本質は、周囲の皮膚、皮下脂肪、軟骨、骨、さらには顔面神経組織へと根を張るように食い込んでいく局所破壊性の強さにあります。放置すれば鼻の軟骨が溶けたり、眼球の周囲組織や頭蓋骨へ浸潤したりするため、早期の段階で病巣を完全に根絶することが求められます。