国内外の事故事例やフィットネス器具関連の調査報告を検証すると、ベンチプレスによる死亡事故の直接的な原因の約8割以上が頸部(首)や胸部へのバーベル落下による圧迫窒息死です。胸の上に落ちた場合でも、肋骨骨折に伴う内臓損傷や血流阻害が生じますが、バーベルが転がって首の気道や総頸動脈を圧迫した場合、人はわずか10秒から数十秒で意識を喪失し、救助がなければ数分で脳死に至ります。
現場指導者や救命救急の医師への取材で浮かび上がったのは、「限界まで追い込もうとしてあえてセーフティを外す」「セーフティバーの位置が低すぎて首を挟んでしまう」という構造的なヒューマンエラーです。特に50kg〜80kg前後の「中級者にとって日常的な重量」であっても、脱力した人体にとっては自力で押し返すことが不可能な致死的質量へと豹変します。
現場のリアルな証言として、都内24時間ジムに通う30代男性は手記で次のように振り返っています。『ウォームアップの60kgで手首の腱を急に痛め、コントロールを失ってバーが喉元へ落ちてきた。セーフティバーをいつもより1段下げていたため、首とバーの隙間が完全にゼロになり、声も出せず視界がブラックアウトしかけた。偶然隣にいた人が飛び込んできてくれたから助かったが、一人だったら確実に命を落としていた』。このような証言は氷山の一角に過ぎません。