医療機関で注射針を刺された瞬間や、予期せぬ怪我で出血を目にした瞬間に意識が遠のく現象は、医学的に血管迷走神経性失神(神経調節性失神)と呼ばれます。心臓や消化器などの内臓機能をコントロールする自律神経には、活動時に働く「交感神経」と、休息・リラックス時に働く「副交感神経(迷走神経)」が存在します。
通常、強い痛みや恐怖などのストレスを感じると交感神経が高ぶり、心拍数を上げて血圧を保とうとします。ところが、何らかの引き金によって副交感神経の代表格である迷走神経が異常に興奮し、ブレーキが過剰にかかってしまうケースがあります。これにより末梢の血管が拡張し、心拍数が急低下することで血圧が急降下し、重力に逆らって脳へ血液を送り届けることができなくなります。その結果、一時的な脳虚血が生じて失神に至るというメカニズムです。
進化生物学の観点からは、外敵に襲われた際に「死んだふり」をして出血を最小限に抑えようとする原始的な防衛本能の名残とも言われていますが、現代社会の日常生活においては転倒による怪我のリスクを伴う厄介なトラブルとなります。