映画『孤狼の血』が放つ圧倒的なエネルギーの源泉は、昭和末期の混沌とした時代を泥臭く生き抜く登場人物たちと、それを演じ切った名優たちの鬼気迫る演技合戦にあります。呉原東署捜査二課を中心に、街の覇権を争う暴力団組織、そして警察上層部の思惑が複雑に絡み合う対立構造を整理します。
物語の軸となる呉原東署において、圧倒的な存在感を放つのが役所広司演じる巡査部長・大上章吾です。「ガミさん」の通称で裏社会からも恐れられる大上は、違法捜査、恫喝、証拠捏造、暴力団との癒着も辞さない型破りなマル暴刑事。警察組織の規律からは完全に逸脱しているものの、その真の動機は「暴力団同士の全面戦争を未然に防ぎ、市民の血を流させないこと」にありました。大上役のオファーを受けた際、役所広司は「いまの日本映画でこれほど男臭く、エネルギーに満ちた脚本に出会えることは稀」と当時の製作発表で語っており、凄みと色気、底知れぬ哀愁を漂わせる怪演で作品を牽引しました。
その大上とバディを組まされるのが、松坂桃李演じる巡査・日岡秀一です。広島大学出身のキャリア志向エリートである日岡は、表向きは新米刑事の育成として配属されますが、裏では広島県警本部監察官・嵯峨大輔(滝藤賢一)から大上の違法捜査と癒着を暴くための「スパイ(内偵)」という特命を帯びていました。正義感に燃える日岡は、大上の常軌を逸した捜査手法に激しい反発と嫌悪感を抱きながらも、修羅場を共にするうちに警察という組織の冷酷さと大上の内に秘めた覚悟を目の当たりにし、精神的に追い詰められていきます。
裏社会側のキーマンとして対峙するのが、地元に根を張る昔気質のヤクザ・尾谷組と、広島屈指の巨大組織・五十子会(いらこかい)の傘下に入り勢力拡大を目論む加古村組です。尾谷組の若頭・一ノ瀬守孝を演じた江口洋介は、仁義と掟を重んじる武闘派の風格を鋭い眼光で体現。大上とは旧知の仲であり、互いに牽制し合いながらも奇妙な信頼関係で呉原の均衡を保っていました。一方、五十子会の威光を盾に凶暴な手口で侵食を図る加古村組の若頭代行・吉原圭之介(駿河太郎)や、血気盛んな構成員・野村公平(成田凌)、さらには大上から激しい拷問を受ける井関守(音尾琢真)らが火種を撒き散らします。
さらに、大上と深い絆で結ばれ、情報提供者としても機能するクラブ「梨子」のママ・高木里佳子役の真木よう子、尾谷組の鉄砲玉として暴発する若き組員・永川恭二役の中村倫也、五十子会の狡猾な首領・五十子正平役の石橋蓮司など、一瞬の隙も見せない豪華キャストが集結。警察内部の保身と暴力団の縄張り争いが蜘蛛の巣のように張り巡らされた相関関係のなかで、予測不能のドラマが展開していきます。