地元住民や科学教育関係者に惜しまれながら、なぜ「きっづ光科学館ふぉとん」は幕を下ろさなければならなかったのでしょうか。ネット上では「採算悪化による赤字破綻」「運営法人の再編による見捨て」「周辺の放射線や安全性の問題」といった真偽不明の噂が囁かれることもありました。
しかし、公的公表資料および組織改編の経緯を突き合わせると、閉館の決定打となったのは「巨額の設備更新コスト」と「研究開発法人としての使命の先鋭化」という2つの冷酷な現実でした。
第一に、施設の老朽化です。2001年の開館から15年以上が経過した2010年代後半、プラネタリウムの専用プロジェクターや音響システム、館内全域の空調設備、さらには体験型展示ギミックの機械的寿命が一斉に限界を迎えていました。これらを安全基準に適合した最新水準へと刷新するには、数億円規模の大規模改修予算が必要不可欠な局面を迎えていたのです。
第二に、運営母体である国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)の設立趣旨と経営資源の配分です。もともと原子力研究所から日本原子力研究開発機構(JAEA)を経て、2016年に量子科学の国際拠点としてQSTが新設されました。同機構に課せられた国家的な使命は、がん治療を革新する量子メスや重粒子線治療、超高強度レーザーの開発、核融合エネルギーの研究といった最先端サイエンスの推進です。
国からの運営費交付金が厳しく精査されるなか、研究法人が自前で独立した大規模テーマパーク型広報施設を維持し続けることに対し、行政刷新や会計検査の観点から厳しい目が注がれるようになりました。「科学教育という崇高な意義」と「国家的研究への集中」の狭間で苦渋の選択を迫られた結果、2018年秋に閉館が正式決定され、2019年3月31日をもって一般公開に終止符が打たれました。