昭和52年(1977年)の大晦日、ちあきなおみ 紅白 1977年のステージは、歌番組の枠組みを完全に破壊しました。前年に日本レコード大賞を受賞した『喝采』の華麗で哀愁漂う大スターのイメージを抱いていた視聴者の前に現れたのは、黒を基調とした衣装に身を包み、鋭利な刃物のような視線を客席に突き刺す表現者の姿でした。
イントロの不協和音とともに始まった夜へ急ぐ人 狂気 演出は、当時のテレビ演出の常識を遥かに超越していました。髪を振り乱し、眼球を異様にカッと見開き、時には白目を剥くような鬼気迫る表情を見せながら、マイクを握り潰さんばかりの激情で歌声を絞り出すその姿に、NHKホールの観客席は静まり返りました。「おいで、おいで」と繰り返されるサビでは、手招きする指先ひとつにまで怨念と孤独が宿り、まさに何かが憑依したかのようなパフォーマンスでした。
当時の特番インタビューや音楽関係者の手記によると、リハーサルの段階から現場のスタッフは彼女の放つ異様なオーラに圧倒され、息を呑んでいたと記録されています。一般的な歌謡曲の範疇を逸脱した演劇的リアリズムと、ジャニス・ジョプリンを想起させる魂の絶叫。それこそが、今日までちあきなおみ 伝説の歌唱として神格化される所以です。