映像とともに視聴者の脳裏へ深く刻み込まれるのが、洗練された胃薬CMソングの曲名やリズミカルなジングルです。音響心理学の観点からも、胃薬のCM音楽には「痛みを和らげる鎮静作用」や「消化を促すリラックス効果」を感じさせる周波数が意図的に選ばれています。
最も有名なクラシック曲といえば、太田胃散のCMで必ず流れるあの優美なピアノの旋律でしょう。この曲は、ポーランドの作曲家フレデリック・ショパンが手掛けた『前奏曲 作品28 第7番 イ長調』です。わずか16小節ほどの短い小品ですが、どこか懐かしく穏やかなメロディは、1970年代から半世紀以上にわたって「胃にいい太田胃散」のフレーズとともに日本人のDNAに刷り込まれてきました。
対照的に、リズミカルな歌声で国民的知名度を獲得したのがロート製薬のパンシロンCMの歌です。「パンシロンでパンパンパン♪」という小気味よいフレーズは、昭和の巨匠・小林亜星が作曲を手掛けた名作コマーシャルソングの一つ。かつてはコメディアンの財津一郎が「タケモトピアノ」以前に茶の間を沸かせたコミカルな歌唱で一世を風靡し、時代が移り変わってもその親しみやすいリズムは現代のショート動画世代にまで語り継がれています。
さらに、大正製薬の「大正漢方胃腸薬」では、メロディ以上に「食べる前に、のむ!」という強烈なサウンドロゴが定着しています。食事の直前に飲むという服薬タイミングの啓発を、言葉のリズムと鋭いアタック音で見事に成立させたマーケティングの教科書的事例です。