1913年(大正2年)、東京市本所区に生まれた加藤嘉は、戦前日本の演劇界における革新運動の真っただ中で役者としての産声を上げました。築地小劇場の流れを汲む新協劇団に参加し、社会派演劇の舞台に立つものの、時代は戦争へと傾斜。左翼運動を取り締まる治安維持法違反容疑で検挙・投獄されるという過酷な試練を味わいます。
戦後に劇団民藝の結成へ参画するなど舞台活動を再開した彼は、やがて活動の軸足を映画へと移しました。整った二枚目俳優がもてはやされた時代にあって、加藤嘉の持ち味は「市井に生きる人間の土臭さ、業の深さ、哀愁」をリアルに体現する比類なき造形力でした。農民、貧困にあえぐ父親、狂気を孕んだ老人、冷徹な権力者まで、どんな役柄であっても生々しい体温を吹き込む怪優として、映画監督たちから絶大な信頼を勝ち取っていったのです。