本作の舞台となるのは、川沿いの桜並木に佇む落ち着いた喫茶店「マーブル・カフェ」。平日の木曜日、決まって同じ席に座り、熱いココアを注文してエアメールを書く女性――通称「ココアさん」。カフェでアルバイトをする青年・ワタルが彼女に寄せるほのかな想いから、物語の歯車が動き出します。
本作の大きな特徴は、12の短編それぞれに「色」をモチーフとしたサブタイトルが冠されている点です。ある章の主人公が次の章では脇役として顔を出し、見知らぬ誰かの背中をそっと押していく連作短編の形式をとっています。
物語のバトンは、東京のカフェからシドニーの幼稚園、現地のサンドイッチ屋、そして再び東京へと手渡されます。大きな事件や悪人は一切登場しません。誰もが日常で抱える小さな迷いや孤独が、誰かのさりげない言葉や行動によって解きほぐされていく過程が、繊細な筆致で描かれます。