世界的冒険家としての母・淳子氏と、家庭人としての素顔。進也氏が語る家庭環境は、世間が抱く「鉄の女」のイメージとは大きく異なり、温かさとユーモアに満ちあふれていた。同じく山を愛し、妻の挑戦を一番近くで支え続けた父・田部井政伸氏の存在もまた、家庭の確固たる支柱だった。
「母は家ではとにかく明るく、美味しい手料理を作ってくれる普通のお母さんでした」と進也氏は振り返る。海外遠征で数ヶ月家を空けることもあったが、戻れば誰よりも濃密な愛情を注ぎ、子どもたちの自主性を何よりも重んじた。父・政伸氏とともに築いた家庭の信頼関係があったからこそ、進也氏は母の偉業を重荷と捉えることなく、自らのアイデンティティとして受け止めることができたのである。