「離婚すると戸籍にバツが付く」という説は、単なる都市伝説ではなく歴史的な手続きの痕跡に由来しています。かつて手書きやタイプライターで戸籍謄本を管理していた昭和から平成初期の時代、配偶者が離婚届を提出して除籍される際、戸籍吏がその人物の氏名欄に朱色や黒色のインクで「×」の斜線を引いて抹消していたという実務上の事実がありました。この視覚的インパクトが俗称の定着を後押しした背景があります。
しかし、全国の自治体で戸籍事務のコンピューター化が完了した現在、発行される戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)に×印が印字されることは一切ありません。現在の公的書式における記載と事実関係を整理すると、以下の通りです。
- 現在の戸籍の記載:離婚した事実がある場合、身分事項欄に「協議離婚届出」などの原因と日付が記され、戸籍から抜けた側の氏名欄の上に「除籍」と簡潔に印字されるのみです。
- 転籍による「見かけ上」のリセット:本籍地を別の市区町村に移転(転籍)したり、自身を筆頭者とする新戸籍を編製したりすると、現在の戸籍には従前の離婚歴が引き継がれず、一見すると離婚の記載がない戸籍謄本が作成されます。
- 過去の履歴は消滅しない:転籍によって最新の戸籍から文字が消えたとしても、改製原戸籍や除籍謄本を取り寄せれば婚姻と離婚の履歴は公的に完全に辿ることができます。財産相続や法的な身分照会において過去を完全に隠蔽することは不可能です。
公的書類に物理的な傷が付くわけではなく、制度上の記載に過ぎないという理解が浸透したことで、離婚歴に対する過度な忌避感は払拭されつつあります。