現在でこそ押しも押されもせぬ名女優となった木村多江だが、20代の頃は極めて過酷な下積み時代を過ごしていた。昭和音楽大学ミュージカル科を卒業後、舞台俳優を目指して活動していた最中、21歳のときに最愛の父親が急死。一家の大黒柱を失った家庭を支えるため、彼女はパン屋、喫茶店、レストランなどのアルバイトを掛け持ちしながら、睡眠時間を削ってオーディションを受け続ける日々を送っていた。
ドラマ版『リング』のオーディションに参加した際、木村多江はまだ無名の新人女優の1人に過ぎなかった。ホラー作品の怨霊役といえば、顔が隠れたり異様なメイクを施されたりと、一般的な若手女優が躊躇しかねない役どころである。しかし彼女は「どんな役でも全力で演じ切り、役者として生き残る」という並々ならぬ覚悟を持ってオーディションに挑み、そのただならぬ集中力と存在感で山村貞子役を勝ち取った。
現場では井戸から這い上がるシーンや怨念に満ちた佇まいを徹底的に研究し、身体表現のすべてを注ぎ込んだ。このとき見せた鬼気迫る怪演がプロデューサーや演出家の目に留まり、テレビ業界内での評価を一気に高めるきっかけとなったのだ。