数値データだけでなく、実際に現場に滞在する観測隊員や研究者の証言は、南極の寒冷環境がいかに人間社会の常識を逸脱しているかを物語っています。国立極地研究所が派遣する「日本の南極地域観測隊」の手記や現地報告には、日常では想像もつかない生々しい現象が記録されています。
第60次越冬隊員や気象庁からの出向観測員の証言録によると、マイナス40℃を下回る環境では以下のような事象が日常茶飯事となります。
「息を吐くと、吐いた息に含まれる水蒸気が一瞬で微細な氷の結晶へと変わり、耳元で『パチパチ』『シュシュ』という微かな摩擦音を立てる。現場ではこれを『星の囁き(サイピング)』と呼ぶが、幻想的な名前に反して、防寒マスクの隙間から露出した皮膚は数分で凍傷の初期段階に至る」
「素手で金属製の観測機器やボルトに触れると、皮膚の水分が一瞬で凍りついて金属と癒着し、無理に剥がそうとすると皮膚組織ごと引きちぎれる。屋外作業時には特殊な二重・三重の手袋が義務付けられ、吐息で凍りついたまつ毛で視界が塞がれるため、常に顔面の筋肉を動かし続けなければならない」
昭和基地(東オングル島)は南極の中では比較的温暖な沿岸部に位置し、年平均気温は約マイナス10℃、冬でもマイナス30℃〜40℃程度ですが、ここを最大風速40m/sを超える「ブリザード(猛吹雪)」が襲います。視界がゼロ(ホワイトアウト)になり、数十メートル先の居住棟に移動することすら命がけとなるため、基地棟間には命綱(ライフライン)が張り巡らされています。
北極圏にはイヌイットなどの先住民族が数千年にわたって定住し、グリーンランドやノルウェーのスバールバル諸島には街や空港、ホテルが存在します。しかし南極には先住民族が歴史上一人も存在せず、現在も各国の研究基地に滞在する交代制の観測隊員しか生存できません。この「人類の定住可能性の有無」こそが、両極の厳しさを物語る最も確かな証拠です。