ペガサス(ギリシャ語名:ペーガソス)の誕生譚は、古代ギリシャの詩人ヘシオドスが遺した叙事詩『神統記』に克明に記されています。英雄ペルセウスが怪異メドゥーサの首を長剣で切り落とした瞬間、その切断部から溢れ出た鮮血の中から、海神ポセイドンの種を宿していた天馬ペガサスが飛び出したと伝えられています。優美な姿とは対照的に、その出自は神話の中でも屈指のおどろおどろしさを秘めています。
生まれたペガサスは天へと昇り、全能の神ゼウスのもとで雷霆(いかずち)を運ぶ役割を担いました。後に英雄ベレロポンが黄金の轡(くつわ)を用いてこの天馬を調教し、火を吐く怪物キマイラを討ち取る伝説は広く知られています。しかし、己の武勲に奢ったベレロポンが「天界の神々の仲間入りをしよう」とペガサスを駆ってオリンポス山へ登ろうとした際、ゼウスが放った虻(あぶ)に刺されたペガサスは驚いて暴れ、ベレロポンを地上へ振り落としました。馬だけが天へと達し、夜空に輝く「ペガスス座」となった結末は、人間の傲慢(ヒュブリス)に対する戒めとして語り継がれています。
一方、ユニコーンのルーツは神話体系というよりも、古代の博物誌や誤訳、宗教美術の積み重ねによって形成されました。紀元前400年頃の古代ギリシャの医師クテシアスが著した『インド誌』には、「インドの野生のロバは額に一角を持ち、その角で作った杯で酒を飲めば毒に当たらない」という記述が存在します。これは実在する「インドサイ」の見聞が伝言ゲームのように誇張されたものと推測されています。
さらに旧約聖書がヘブライ語からギリシャ語に翻訳される際、野牛を指す「レエーム」という単語が一角獣(モノケロース)と誤訳されたことで、中世ヨーロッパのキリスト教社会においてユニコーンは「聖なる実在の獣」として決定的に定着しました。獰猛無比で百戦錬磨の狩人でも捕獲できないが、純潔な処女の前でだけは野生を失い、膝の上に頭を預けて眠りに落ちるという伝説は、聖母マリアの純潔とキリストの受肉を象徴する宗教的寓意として、タペストリーや絵画に無数に描かれることとなりました。