表参道の喧騒を離れ、ビルの最上階で心地よい時間を過ごせた名空間は、なぜ営業を終えることになったのか。ファンの間では「コロナ禍による赤字撤退ではないか」「作家との契約終了によるトラブルではないか」といった様々な憶測が飛び交った。しかし、商業登記や飲食業界の動向、そしてA to Z cafeの運営会社である株式会社商業藝術(現・株式会社DDグループ傘下)の開示情報を照らし合わせると、まったく異なる事実が浮かび上がる。
最大の要因は、入居していた南青山「equboビル」における定期建物賃貸借契約の満了と、築年数の経過に伴う設備メンテナンスの大規模化である。2006年のオープンから数えて17年。商業テナントの定期借家契約としては異例の長期にわたる更新を重ねてきたが、ビル全体の将来構想や空調・配管設備の更新時期が重なり、ひとつの大きな節目を迎えた。
飲食業界関係者の証言によると、「突発的な破綻や経営難によるクローズではなく、年単位で綿密に準備された契約満了による円満なフィナーレ」であった。17年間という歳月は、目まぐるしくトレンドが入れ替わる南青山・表参道エリアにおいて驚異的な息の長さであり、むしろカフェカルチャーの金字塔として見事に役割を全うした幕引きであったと言える。