学校の合唱部やアマチュアオーケストラの練習現場で最も頻発するトラブルが、「楽譜の冒頭にシャープやフラットが何個あるか」だけで調性を当てようとする失敗です。
音楽教育の現場を長年取材する専門家や、合唱指導者のWeb発信(『えすたの合唱ノート』など)でも繰り返し警鐘が鳴らされているのが、「シャープが多いから長調、フラットが多いから短調」という完全な思い込みです。調号の記号数は、後述する「平行調」という関係によって、長調と短調でまったく同じものが共有されます。調号がゼロの楽譜を渡された場合、可能性は「ハ長調」か「イ短調」の2通りが存在し、調号を見ただけではどちらなのか100%判別できません。
現場のプロが一瞬で調性を特定するために実践している「楽譜からの調性見極め方」には、絶対に見落としてはならない明確なチェックルーティンがあります。
第一の手がかりは「曲の最後の小節の最低音(ベース音)」です。クラシック音楽からポピュラー楽曲まで、西洋音楽の調性システムに従って作られた楽曲は、9割以上の確率でその調の「主音(トニック)」で終止します。調号が何もない楽譜において、最後の小節のバスパートやピアノの左手の最低音が「ド(C)」で力強く終わっていればハ長調であり、「ラ(A)」で着地していればイ短調であると断定できます。
第二の手がかりは「第7音についている臨時記号(シャープやナチュラル)」の存在です。短調の楽曲には、終止感を強めるために音階の7番目の音を半音吊り上げる音楽理論上のルールがあります。調号がない楽譜のメロディや伴奏に「ソのシャープ(G♯)」が頻繁に登場していれば、それは自然な短音階を「和声的短音階」へと変化させている確たる証拠であり、即座にイ短調であると見抜くことができます。