篠原一男が提示した「住宅は芸術である」という有名なマニフェストを、極限の密度で体現したのが「傘の家」の間取りと構造です。建坪はわずか55.4平方メートル(約16.7坪)。当時の一般的な公団住宅(2DK)と同等以下の面積でありながら、足を踏み入れた瞬間に広がる空間の伸びやかさは訪れる者を圧倒します。
平面計画は約7.2m四方の正方形。建物の中心に柱を一切落とさず、日本の伝統的な民家や社寺建築に見られる「方形(ほうぎょう)屋根」の架構を幾何学的に再解釈しています。放射状に美しく広がる杉材の垂木が、まるで和傘を開いたかのような力強い小屋組を形成し、頭上に広大な気積(ヴォリューム)を生み出しています。
間取りの構成は極めて論理的かつシンプルです:
- 居間・食事室(全体の南側半分):間仕切りのない開放的なワンルーム。天井の高い方形架構がそのまま露出するダイナミックな生活空間。
- 個室(北西側):畳敷きの寝室。襖によってメイン空間と緩やかに仕切られ、伝統的な日本空間のスケール感を保持。
- 水回り・サービス空間(北東側):台所、浴室、洗面所をコンパクトに集約。
機能主義的な近代住宅が部屋を細かく細分化していった時代に、篠原は空間全体をひとつの象徴的な立体として捉え直しました。簡素な木造フレームの中に「日本古来の空間感覚」と「抽象的な幾何学」を共存させたこの設計手法こそ、後の伊東豊雄や妹島和世、坂茂といった世界的建築家たちに決定的なインスピレーションを与えることになります。