ふたりの王者の運命が交錯したのは、2020年春のことだ。当時、WBO(世界ボクシング機構)バンタム級王者だったジョンリル・カシメロと、WBA・IBF王者の井上尚弥による3団体王座統一戦が米ラスベガスで正式発表された。世界中のボクシングファンが熱狂したドリームマッチ。しかし、世界を襲ったパンデミックによって試合は延期となり、最終的に白紙撤回という残酷な結末を迎える。
流産となった対戦だが、カシメロの猛烈なアピールは収まらなかった。「モンスター」と恐れられる井上に対し、メディアやSNSを通じて過激な口撃を連発。一時はWBC(世界ボクシング評議会)や各団体の王座を巡る争いの中でも、常に「イノウエ」の名を口にし続けた。結局、井上は階級を上げてスーパーバンタム級で4団体完全統一という偉業を達成。ふたりの対戦は「幻の決戦」としてプロボクシング業界の歴史に刻まれることとなった。