子猫から若齢の猫、あるいは免疫力が低下した高齢猫において、腹水の原因として圧倒的な割合を占めるのが猫伝染性腹膜炎(FIP)のウェットタイプです。かつて動物医療の現場では「致死率ほぼ100%」「余命数日から数週間」と宣告され、飼い主と獣医師を深い絶望に突き落としてきた難病でした。
FIPウェットタイプの初期症状は、非常に狡猾に始まります。発症初期には以下のような微細な変化が見られます。
- 抗生剤に反応しない持続的・間欠的な高熱(39.5度以上)
- 食欲の減退と、それに伴う急激な体重減少(背骨の突出)
- 寝てばかりいる、遊びへの反応が極端に鈍くなる沈うつ状態
- 白目や歯茎、皮膚が黄色く濁る黄疸症状
- そして、急激に進行する下腹部の膨満(粘稠度の高い黄色い腹水)
採取された腹水が黄色く濁り、指先にとると納豆のように糸を引く高い粘稠性(アルブミンとグロブリンの高濃度含有)を示した場合、FIPウェットタイプの可能性は極めて濃厚となります。
しかし、2026年現在の獣医療において、FIPは「もはや死の病ではない」という共通認識が定着しつつあります。ウイルスのRNA複製を直接阻害するGS-441524系製剤やモルヌピラビルをはじめとする抗ウイルス薬の研究が進み、適切な早期投与を行った場合の寛解率は85%から90%以上に達するという臨床研究データが相次いで報告されています。日本国内においても、複数の大学病院や高度医療センター主導の治験や専門外来の整備が進み、かつて個人輸入や不透明な投薬ルートに頼らざるを得なかった状況から、安全性とエビデンスに基づいた標準治療プロトコルへの移行が急速に進行しています。
余命宣告を前にして諦める必要はありません。腹水に気づいたその日のうちにFIP遺伝子検査(PCR)や性状検査へ踏み切れるかどうかが、愛猫の命を救う最大の分岐点となります。