日本のポップ・ロック史を振り返ると、いくつかのトリビュートアルバムは単なる企画盤の域を脱し、音楽シーンのパラダイムを塗り替えるマスターピースとして君臨しています。ファンの間で伝説と呼ばれる代表的な歴代名盤を取り上げます。
1. 『hide TRIBUTE SPIRITS』(1999年)|日本のトリビュート文化を決定づけた金字塔
X JAPANのギタリストであり、ソロアーティストとしても絶大な影響力を持ったhideの急逝から約1年後にリリースされた本作は、日本のトリビュートアルバム史上初めてミリオンセラー(出荷100万枚以上)を達成した歴史的作品です。GLAY、LUNA SEA、BUCK-TICK、布袋寅泰、SIAM SHADEといった当時のトップロッカーたちが集結しました。各アーティストが自身のスタイルを全開にしながらも、hideという不世出のアイコンに対する狂おしいほどの愛と喪失感を刻み込んでおり、現在でもロックキッズのバイブルとして聴き継がれています。
2. 『アダムとイヴの林檎』(2018年)|椎名林檎のデビュー20年を彩った名手たちの狂宴
椎名林檎のデビュー20周年を祝して制作された本作は、「豪華参加アーティスト一覧」を見るだけでその異様さが際立ちます。宇多田ヒカル&小袋成彬による「丸ノ内サディスティック」をはじめ、レキシ、吉井和哉、木村カエラ、私立恵比寿中学、三浦大知まで、彼女の特異な音楽世界を愛する表現者が集結しました。当時の特番インタビューにおいて参加者たちが口を揃えて語ったのは、「林檎さんの楽曲は構造が緻密すぎて、少しでも解釈を緩めると歌い手が飲み込まれてしまう」という戦慄でした。単なるリスペクトを超え、音楽的知性同士が火花を散らすスリリングな名盤です。
3. 『宇多田ヒカルのうた -13組の音楽家による13の解釈について-』(2014年)|本人が驚嘆した13の再定義
宇多田ヒカルが活動休止中(人間活動中)のデビュー15周年にリリースされた本作は、参加陣のジャンルの広大さでシーンに衝撃を与えました。井上陽水による妖艶な「SAKURAドロップス」、椎名林檎が歌う狂気の「Letters」、tofubeatsによる「Stay Gold」、そして同時代をトップランナーとして競い合った浜崎あゆみによる「Movin' on without you」の参加は、平成歌姫の歴史的邂逅として語り草となりました。公式発表資料において宇多田ヒカル本人が「どの曲も私の手から離れて、それぞれの新しい物語として自立して生きている」と感嘆のコメントを寄せた通り、作家性の強靭さを証明した一作です。
4. 『一期一会 Sweets for my SPITZ』(2002年)|スピッツメロディの普遍性を実証した名盤
スピッツトリビュート名盤として真っ先に挙げられる本作は、椎名林檎による息を呑むような「スピカ」のカバーを筆頭に、奥田民生、POLYSICS、GOING UNDER GROUND、羅針盤などが参加しました。草野マサムネが生み出す「誰もが口ずさめる親しみやすいメロディ」と「毒や儚さを孕んだ詩世界」が、パンク、エレクトロ、正統派ロックなど全く異なるフィルターを通すことで、いかに変幻自在な強度を持っているかが浮き彫りとなりました。2015年に発売された『JUST LIKE HONEY ~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~』と並び、バンドの偉大さを再確認させる指標となっています。