「発疹が出ないなら、そのうち自然治癒するのではないか」という判断は、生涯にわたる苦痛を招く最も危険な誤解です。帯状疱疹ウイルスの増殖を放置すると、ウイルスが神経軸索を破壊し尽くし、末梢神経から中枢神経系への痛覚伝達回路が暴走状態に陥ります。
急性期の炎症が治まった後も、3ヶ月以上にわたって耐え難い痛みが残る病態を帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼びます。50歳以上の帯状疱疹患者の約2割がPHNに移行するとされ、高齢になるほどその確率は上昇します。PHNに移行した場合、通常の鎮痛薬はほとんど効かず、プレガバリン等の神経障害性疼痛治療薬や神経ブロック注射を数ヶ月から数年にわたって続けなければならない過酷な現実が待っています。
PHNを確実に予防するための医学的ゴールドスタンダードは、症状自覚から72時間以内の抗ウイルス薬投与開始です。ウイルスの複製酵素を阻害する内服薬(アメナメビル、バラシクロビル塩酸塩など)を迅速に投与することで、神経線維の破壊を最小限に食い止めることができます。