1960年代初頭、日本の映画産業が最大の活況を呈していた日活において、吉永小百合の登場は決定的な事件だった。無垢な少女の面影を残しながらも、レンズを見つめる瞳にはどこか揺るぎない覚悟が宿っていた。スタジオの照明を一身に浴びるその姿は、同時代のどんな女優とも異なる清冽なオーラを放っていた。
彼女の名を不滅のものにしたのが、1962年公開の名作『キューポラのある街』だ。埼玉県川口市の鋳物工場街を舞台に、貧困や家族の分断に抗いながら生きる少女・ジュンを熱演。泥臭いリアリズムの中に咲いた一輪の花のような佇まいは、観客に強烈なカタルシスを与えた。過剰な装飾を削ぎ落とし、ノーメイクに近い素顔でぶつかったこの演技によって、吉永はわずか17歳にしてブルーリボン賞主演女優賞を受賞。日本映画の次世代を担う旗手として、その地位を決定づけた。