長年にわたり、この言葉を最も悪用してきたのが労働環境の劣悪な企業です。ブラック企業の搾取と詳細まとめにおいて共通して見られる手口は、過酷な労働環境を「若手を育てるための愛の鞭」としてすり替える心理的操作です。
心理学では「学習性無力感(Learned Helplessness)」という概念が知られています。逃げ場のないストレス環境に長期間置かれ続けると、人間は「どんな行動を起こしても状況は変わらない」と脳が諦めを学習してしまい、脱出する意欲そのものを奪われていきます。ブラック企業は「苦労は買ってでもするものだ」と刷り込むことで、若手社員の自尊感情を削り、従順な労働力として固定化させる手法を用いてきました。
ある大手制作会社を退職した元社員の手記には、生々しい告白が綴られています。「『ここで苦労できない奴はどこへ行っても通用しない』と上司に怒鳴られ続け、月120時間を超える残業を自発的な努力だと思い込まされていた。しかし、適応障害で倒れた瞬間に会社は一切の責任を取らず、残ったのは回復に3年を要した壊れた身体と空白の履歴書だけだった」。
現場で語られるこうした報われない無駄な苦労の真相は、成長のプロセスではなく、単なる「労働力の使い捨て」です。自己目的化した過重労働を美談に仕立て上げる組織からは、一刻も早く距離を置くのが身を守るための鉄則です。