ブルダックポックンミョンが世に放たれたのは2012年4月のことでした。当時の韓国ラーメン市場において、激辛の汁なし炒め麺というジャンルは完全なニッチであり、社内でも「辛すぎて一般層には売れない」と否定的な意見が主流を占めていたと伝えられています。開発担当者がソウルの明洞にある激辛火鶏(ブルダック)専門店に行列する若者の姿に着目し、約1年間にわたり世界各国の唐辛子数トンを試食・研究して完成させたという逸話は、開発の執念を物語っています。
このローカルな激辛麺が世界へ羽ばたく転換点となったのが、YouTubeを発端とする「Fire Noodle Challenge(激辛麺チャレンジ)」の爆発的バイラルでした。涙を流し、悶絶しながら完食を目指す配信者の姿が共感を呼び、国境を越えて若年層の挑戦心を刺激したのです。
心理学の領域では、恐怖や苦痛を安全な環境で体験してスリルを味わう心理を「良性マゾヒズム(Benign Masochism)」と呼びます。激痛に近い刺激を乗り越えた際に脳内で分泌されるエンドルフィンやドーパミンが、日常のストレスを忘れさせる強いカタルシスをもたらします。「辛い、痛い、でも箸が止まらない」という現象は、生理的快感とデジタルネイティブ世代の自己表現欲求が結びついた結果と言えます。