アジサイの増殖で最も多くの人が直面するトラブルが、「挿し穂を挿して1〜2週間ほどで茎が黒く変色し、一度も根が出ずに腐ってしまう」という現象です。ネット上の知恵袋や園芸コミュニティでも「水やりを毎日欠かさなかったのに枯れた」「高価な培養土を使ったのに根が出ない」といった悲鳴が絶えません。なぜこれほど強健なアジサイが、増殖の段階ではいとも容易に枯死するのでしょうか。
植物生理学的な観点から分析すると、発根に失敗する原因は主に「3つの致命的なミス」に集約されます。
第1の原因は、「用土に含まれる有機質や肥料分による雑菌繁殖」です。良かれと思って草花用の元肥入り培養土や腐葉土を使う初心者が後を絶ちませんが、根を持たない挿し穂にとって、有機質に含まれる微生物や肥料分は劇薬に他なりません。傷口から雑菌が侵入して導管を塞ぎ、切り口が軟腐病のように腐敗します。発根前の挿し穂に必要なのは栄養ではなく、徹底して無菌かつ低刺激な環境です。
第2の原因は、「給水量と蒸散量のアンバランスによる脱水」です。土に挿した枝にはまだ吸水するための「根」が1本も存在しません。茎の切り口から毛細管現象でかろうじて水分を吸い上げている状態に対し、大きな葉がそのまま残っていると、気孔から凄まじいスピードで水分が蒸散します。吸水が追いつかなくなった挿し穂は細胞の張力を失い、数時間から数日で修復不能なしおれを起こして力尽きます。
第3の原因は、「過剰な確認作業や水流による毛細根の破壊」です。土の表面が乾くのを恐れるあまり強いシャワーで水を浴びせたり、「もう根が出ただろうか」と茎を触ってグラつかせたりすると、ようやく出始めたマイクロメーター単位の極小の根毛がちぎれてしまいます。アジサイの発根には「触らず、動かさず、清潔な湿度を保つ」という植物への静かな放置が不可欠です。