臨床の現場において、患者が受診を決意する直接の引き金として最も多いのが「ここ数ヶ月で急に大きくなった」という変化です。SNSの体験談や闘病記、医療機関の受診レポートなどを調査すると、当事者が違和感を覚えてから確定診断に至るまでのリアルな過程が浮き彫りになります。
ある70代の男性患者は、手記のなかで次のように述懐しています。「最初は鼻の横に小さな黒いイボができただけでした。触ると少し硬い程度で、痛みも痒みも全くない。ところが半年ほど経つと米粒大から小豆大へと膨らみ、洗顔のたびに表面からわずかに血がにじむようになった。それでも絆創膏を貼って誤魔化していたが、妻に強く促されて皮膚科を受診したところ、即座に大病院を紹介され基底細胞癌と診断された」。
皮膚がんが「急に大きくなる」背景には、腫瘍細胞が良性腫瘍とは根本的に異なる増殖メカニズムを持っている点があります。良性のいぼは表皮細胞のターンオーバーに沿って緩やかに増大するか、一定の大きさで成長が止まります。これに対し、がん細胞は自ら周囲に微小な新生血管を誘導し、酸素と栄養を貪欲に取り込みながら自律的に分裂を繰り返します。特に真皮深層へと浸潤を始めた腫瘍は、表面への隆起だけでなく深部へ向かって急速に容積を拡大させるため、ある時期を境に急激なサイズアップとして自覚されるのです。
また、高齢者の皮膚は菲薄化しており、毛細血管も脆くなっています。腫瘍組織自体の脆弱性と相まって、わずかな摩擦で組織が崩れて出血しやすくなります。「衣服に血がついた」「かさぶたが取れても治らず、何週間もジュクジュクしている」という状態は、腫瘍組織が崩壊を起こしている危険なシグナルです。