「退去立ち会いの際、遠目に見るだけだから100均パテで埋めておけばバレない」という言説がSNSや掲示板で散見されますが、これは現場を知らない楽観論に過ぎません。管理会社や原状回復業者の立会人は、入居者が退去した空室で何千件もの壁面を精査してきた鑑識のプロフェッショナルです。賃貸退去時の壁穴補修がバレる理由には、明確な3つの物理的要因が存在します。
第1の要因は「斜光線による凹凸の露呈」です。立ち会い検査時、査定員は壁の正面から漫然と見るのではなく、窓からの自然光やライトの光を壁面に対して浅い角度(斜め45度前後)から当てて確認します。素人が施したパテ補修は、正面から見ると平らに見えても、光を斜めから受けるとパテの盛り上がりや縁の段差が濃い影となってくっきりと浮き上がります。
第2の要因は「壁紙の質感(エンボス加工)と色あせの不一致」です。住宅用のビニールクロスには細かな凹凸模様がプレスされています。セリア壁の穴埋めパテなどで表面を撫でて平らに固めてしまうと、そこだけ凹凸のない「不自然につるつるした円」が出現します。さらに、築年数の経過した部屋の壁紙は生活煙や紫外線でわずかに黄変しているため、充填したばかりの真っ白なパテだけが異様に浮き立ってしまうのです。
第3の要因は「打診検査」です。査定員は修復の痕跡が疑われる箇所を見つけると、指関節で壁を軽く叩いて音の反響を確かめます。石膏ボードが割れたままメッシュテープとパテだけで蓋をした箇所は、内部が空洞になっているため、正常な壁面とは明らかに異なる鈍い音を発します。プロの指先が触れた瞬間、下地が損壊している事実は即座に露呈します。