「舌の裏にギザギザした突起があるけれど、まったく痛くない」――口腔外科の初診外来を訪れる患者の主訴として、極めて頻度が高いのがこのケースです。結論から言えば、痛みを感じない突起の約7割は、疾患ではなく人体にもともと備わっている正常解剖構造です。
代表的なものが、舌の裏の正中にある筋(舌小帯)の両脇に、八の字を描くように走る「采状ヒダ(さいじょうひだ)」です。胎児期に舌が形成される過程で生じる粘膜のひだの名残であり、フリルや小さな房のような形状をしています。成人になっても明瞭に残る人が多く、体調不良や口内炎による軽い充血、あるいは舌を過剰に持ち上げて鏡を凝視した際に初めて気づき、「急に病的な腫瘍ができた」と錯覚する相談が後を絶ちません。
さらに、舌の裏の付け根、舌小帯の根本の左右に存在する一対の赤い膨らみは「舌下小丘(ぜっかしょうきゅう)」と呼ばれます。ここは唾液を分泌する顎下腺と舌下腺の開口部であり、体液の循環を司る重要な器官です。刺激物や疲労によって一時的に赤く充血したり腫れたりすることはありますが、左右ほぼ均等に存在し、弾力があって柔らかい状態であれば、生理的な現象とみなされます。