1980年代から映画『遠雷』や『男はつらいよ』シリーズなどで日本アカデミー賞をはじめとする数々の映画賞に輝き、日本を代表する演技派女優として君臨していた石田えり。彼女が1993年10月、突如として世に送り出した写真集『罪』(スコラ刊)は、当時の出版界および芸能界に激震をもたらしました。当時32歳、円熟味を帯び始めたトップ女優の決断は、ワイドショーや週刊誌で連日トップニュースとして報じられる事態へと発展したのです。
背景にあったのは、1991年に宮沢りえが放った『Santa Fe』から幕を開けたヘアヌードブームの過熱です。商業主義的な追随作品が粗製乱造される中、石田えりが求めたのは単なる話題作りや露出ではありませんでした。タッグを組んだのは、女性の官能と心象風景を幻想的に描き出す稀代の写真家・沢渡朔。彼らは商業出版の枠組みを逸脱し、人間の根源的な孤独や業、美の刹那をモノクロームと陰影を基調とした圧倒的な絵画的トーンで表現し尽くしました。
発売と同時に全国の書店へ予約が殺到し、累計発行部数は50万部を突破。男性読者のみならず、自立した大人の女性たちからも「ひとつの身体表現として美しい」「従来のヌードの卑猥さを微塵も感じさせない」と絶大な支持を獲得しました。商業的成功と芸術的評価を最高水準で両立させ、日本写真史におけるヘアヌードの概念を根本から塗り替えた象徴的な出来事でした。