台所のシンクやカトラリーでおなじみのステンレス鋼。「ステンレスは磁石につかない」と信じている方は多いですが、実際の製品で試すと磁石がピタッとくっつくケースが多発します。この現象の背景には、金属組織の結晶構造の違いがあります。
日本産業規格(JIS)などでも分類されている通り、ステンレスは主に鉄をベースにクロムやニッケルを添加した合金です。その組織構造によって磁気特性が180度変わります。
1. オーステナイト系ステンレス(SUS304など):
鉄にクロム(約18%)とニッケル(約8%)を混ぜた素材。結晶構造が「面心立方格子」となり、電子のスピンが打ち消し合うため、基本状態では磁石につきません。高級食器やシンク本体に採用されています。
2. フェライト系・マルテンサイト系ステンレス(SUS430、SUS420など):
ニッケルを含まずクロム主体で構成される素材。結晶構造が「体心立方格子」を保つため、通常の鉄と同様に磁石がしっかりくっつきます。家庭用包丁やマグネット対応のキッチンパネルに利用されます。
ここで見落とせないのが「加工による磁性化」です。本来は磁石につかないオーステナイト系(SUS304)であっても、プレス加工や曲げ加工、絞り加工などの強い物理的圧力が加わると、結晶構造の一部がマルテンサイト組織へと変化(加工誘起変態)します。その結果、「お皿の底面やスプーンの曲がり角だけ磁石がつく」という興味深い現象が発生します。