ミレーの『種まく人』に最も魂を揺さぶられた後世の画家といえば、フィンセント・ファン・ゴッホを置いてほかにいません。ゴッホにとってミレーは単なる先達ではなく、生涯を通じて崇拝し続けた「神のごとき絶対的存在」でした。
ゴッホは弟テオへの手紙でミレーへの賛辞を繰り返し綴り、自らの画業において『種まく人』の構図を油彩や素描で20点以上も狂信的に模写・再解釈しています。クレラー・ミュラー美術館に所蔵されている1888年の名作『種まく人』では、ミレーの暗い土色を脱ぎ捨て、燃え盛るような巨大な黄色い太陽と紫の大地という、ゴッホ特有の激しい補色対比で表現されました。
なぜゴッホはこれほどまでに種まく人に執着したのでしょうか。それは、彼自身が求道者のように孤独と精神的苦痛の中にありながら、「死と再生のサイクル」を信じていたからです。地に落ちて朽ちる種は、春になれば豊かな実りをもたらす。ミレーの描いた農民の姿に、ゴッホは自己の芸術活動と、いつか報われるはずの救済の祈りを重ね合わせていたのです。