磯野家のトラブルメーカーであるカツオですが、初期における性格設定は現在の「愛されキャラ」とは大きく異なっていました。一言で表現するなら、「世渡り上手を通り越した、狡猾な不良少年予備軍」でした。
初期のエピソードにおけるカツオは、大人を平気で嘘に巻き込み、小遣いを巻き上げるためのインチキ商売を企てたり、偽の病気を装って学校をサボろうとしたりと、極めて打算的な行動を連発します。近所の子どもたちを子分のように従えて悪事を働く場面もあり、当時の視聴者からは「カツオの行動が教育上よろしくない」という投書がテレビ局に寄せられるほどでした。
そして、そんなカツオと対峙する波平の怒鳴り声には、単なるギャグ以上の「昭和の父親のリアリティ」が込められていました。
当時の波平が怒鳴る理由は、決して理不尽な癇癪だけではありません。明治生まれ・大正育ちの家父長としての権威を保ち、規律と世間体を重んじる価値観が根底にありました。戦後の高度経済成長期において、急速に欧米化・個人主義化していく子ども世代(カツオ)に対し、旧来の道徳観を力づくで叩き込もうとする父親の葛藤が、あの凄まじい「ばっかもーん!」の怒号に凝縮されていたのです。
波平の怒声は、単なる威圧ではなく「社会の厳しさを教える最後の防波堤」としての役割を担っていました。しかし時代が下火になるにつれ、家庭内暴力や威圧的指導への世間の視線が厳しくなったことで、波平の叱責は「感情的な激怒」から「道理を言い聞かせる諭し」へと変化していきました。