レッドカーペットの起源を紐解くと、そのルーツは紀元前458年に上演された古代ギリシャのアイスキュロスによる悲劇『アガメムノン』に行き着きます。トロイア戦争から凱旋したアガメムノン王に対し、妻クリュタイムネストラが「神のみが歩くことを許される真紅の布」を敷いて迎える場面が、人類史における最古の記録とされています。当時、赤は人間が踏み躙ってはならない「神聖不可侵の領域」を象徴していました。
赤という色彩が絶対的な権威を持った最大の理由は、その染料の希少価値にあります。地中海で採取されるプルプラ貝(貝紫)や、ウチワサボテンに寄生するエンジムシ(コチニール)から抽出される真紅の染料は、金と同等以上の価格で取引されていました。中世ヨーロッパの貴族社会やキリスト教会において、真紅の絨毯の上を歩くことは、王侯貴族や高位聖職者だけに許された最高峰の特権だったのです。
近代における「VIPを迎える実用的なおもてなし」として定着したきっかけは、1821年にアメリカ合衆国第5代大統領ジェームズ・モンローがサウスカロライナ州ジョージタウンを訪問した際、船から降り立つ彼を迎えるために敷かれた赤い絨毯でした。さらに1902年、ニューヨーク・セントラル鉄道の豪華旅客列車「20世紀特急」が、乗客をプラットホームへ誘導する案内表示を兼ねてレッドカーペットを導入し、上流階級の歓待演出として広く大衆に浸透しました。
ハリウッド映画界がこれを公式に採用したのは1922年、シド・グローマンが主催した『ロビン・フッド』のプレミア上映(エジプシャン・シアター)が最初です。その後、1961年の第33回アカデミー賞中継で導入されたことで、映画の祭典を象徴する世界標準のフォーマットとして確立されました。被写体の輪郭を最も美しく引き締め、写真やテレビ映像において肌のトーンを鮮やかに際立たせるという視覚効果も、赤が選ばれ続ける実利的な理由となっています。