なぜ同じフライトに乗っていながら、全く平気な人と激痛に悶絶する人に分かれてしまうのでしょうか。その境界線を分ける最大の要因は、耳管の通気機能にあります。
中耳腔と鼻咽腔をつなぐ耳管は、安静時には閉じており、嚥下(唾液を飲み込む動作)やあくびの瞬間に「口蓋帆張筋(こうがいはんちょうきん)」が収縮することで一瞬だけ開口します。しかし、以下のような構造的・病理的要因が存在すると、耳管の開閉弁が物理的にロックされ、自力での耳抜きが不可能になります。
- 鼻副鼻腔炎(蓄膿症)やアレルギー性鼻炎:鼻咽腔の粘膜がアレルギー反応や感染によって肥厚し、耳管の入り口(耳管咽頭口)を物理的に塞いでしまう。
- 上気道炎(風邪):風邪のウイルスによって耳管粘膜自体が腫れ上がり、管の直径が極端に狭窄する。
- 耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう):解剖学的に耳管が狭い、あるいは耳管周囲の軟骨や筋肉の働きが脆弱な体質。成人女性や顎関節に歪みがある層にも潜在患者が多い。
- 疲労・脱水・睡眠不足:長距離フライトによる自律神経の乱れや機内の極度の乾燥(湿度10〜20%)により、気道粘膜の線毛運動が低下し分泌物が濃縮・閉塞を招く。
とりわけ見落とされがちなのが、降下時の着席姿勢と睡眠です。飛行機が高度を下げ始める着陸態勢(着陸の約30〜40分前)で眠り込んでいると、嚥下回数が劇的に低下します。無防備な睡眠中に周囲の気圧だけが一方的に上昇し、気圧差が中耳腔の許容限度(約60〜90hPa以上の差)を超えると、耳管組織そのものが陰圧によって互いに吸着し合ってしまい、着陸後にいくら唾を飲み込んでも二度と開かなくなるという悪循環に陥るのです。