坂東玉三郎『鷺娘』伝説と封印の真相|美しき狂乱の舞と芸の神域

坂東玉三郎『鷺娘』伝説と封印の真相|美しき狂乱の舞と芸の神域

坂東玉三郎『鷺娘』伝説と封印の真相|美しき狂乱の舞と芸の神域の全体像を分かりやすくまとめてご紹介します。

2009年、歌舞伎座の建て替えに伴う「さよなら公演」の舞台において、玉三郎は『鷺娘』の舞台上演からの勇退、事実上の上演封印を公にしました。当時59歳。女形としての人気も評価も頂点を極めていた時期の決断は、演劇界に大きな衝撃を与えました。

なぜ、自身の代名詞であった演目を封印したのか。その背景には、玉三郎ならではの「完璧主義」と「引き際の美学」が存在していました。当時の特別インタビューや自著において、玉三郎は次のような趣旨の告白を残しています。

「『鷺娘』は、十九歳の頃から命を削るようにして踊り続けてきた役。年齢とともに体力が落ちていく中で、型を崩したり、表現の純度を落としてまで踊り続けることは、作品に対してもお客様に対しても許されない。最高の状態の記憶を舞台に残して終わりにしたい」

舞踊劇としての『鷺娘』は、わずかでも足腰の踏ん張りやキレが衰えれば、鷺の精が持つ「この世ならぬ浮遊感」が損なわれてしまいます。肉体の限界を冷静に見極め、自らの美意識が許容できる最高到達点でピリオドを打つ——。この決断こそが、坂東玉三郎という不世出の芸術家が貫いた誠実さの証明でした。

伊藤 翔太
著者

伊藤 翔太

マネー知識やキャリア形成に役立つノウハウを、初心者にも分かりやすく解説するのが得意です。