復帰への道筋を決定づけたのは、他ならぬ北野武監督からの直接のオファーでした。2017年公開の完結編『アウトレイジ 最終章』の製作にあたり、北野監督は塩見三省の体調を把握した上で、「中田役は塩見さんでなければ成立しない」と熱烈に出演を要請したのです。
ここに、北野武監督による『アウトレイジ』撮影秘話の核心があります。北野監督は、塩見三省の患った後遺症を隠すような演出は一切しませんでした。むしろ、杖をついてゆっくりと歩く姿や、椅子に深く腰掛けたまま眼光だけで相手を射抜く所作を活かし、劇中の花菱会幹部としての「百戦錬磨の貫禄と凄み」へと昇華させたのです。
撮影現場では、同じく体調に不安を抱えながら撮影に臨んでいた西田敏行や、長年の盟友であった大杉漣が温かくサポートしました。カットがかかるたびに声を掛け合い、互いの体調を気遣いながら高め合った現場の空気感は、映画全体の重厚なリアリティとなってフィルムに焼き付いています。
2018年に行われた「第27回東京スポーツ映画大賞」の授賞式で助演男優賞を受賞した際、塩見三省は壇上で涙を流しながら「北野監督、僕を使ってくれて本当にありがとうございました」と言葉を絞り出しました。この姿は、映画界の歴史に残る感動的な名場面として語り継がれています。