ネット上の言説では「過激な悪口と派手なMVだけでバズった曲」と短絡的に捉えられがちですが、それは完全な誤解です。『Without Me』が真に傑作と呼ばれる理由は、その音楽的構造の緻密さにあります。
本作のバックトラックは、セックス・ピストルズの仕掛け人として知られるマルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)の1982年の楽曲『Buffalo Gals』のベースラインとリズムパターンを巧妙にサンプリング・再構築したものです。さらに、随所に差し込まれるサックスのリフや「Na-na-na-na...」というキャッチーなコーラスワークは、ヒップホップファンのみならずポップスリスナーの耳を瞬時に捉える計算され尽くしたポップ・エンジニアリングの賜物でした。
さらに、1小節の中に詰め込まれた多音節ライム(マルチライム)と、目まぐるしく変化するフロウの緩急は、ラッパーとしてのスキルが頂点に達していた当時のエミネムだからこそ成立した神業と言えます。