事件の一報が流れると同時に、日本国内のテレビのワイドショーやインターネット掲示板では、凄まじい嵐のような「自己責任論」が吹き荒れました。
同年4月に発生した3邦人人質事件の際にも「危険を承知で行ったのだから自業自得だ」「救出費用を国に請求するな」といったバッシングが起きていましたが、香田さんの事件では渡航目的が観光の延長線上と受け取られたことから、世論の風当たりは一段と苛烈を極めました。2ちゃんねる等のネット掲示板には、香田さん本人やその出自に対する根拠のない誹謗中傷、嘲笑的な書き込みが数多く溢れかえりました。
そうした過熱するバッシングの渦中に立たされたのが、福岡で息子の無事を祈り続けたご家族でした。香田さんの両親と兄は、憔悴しきった表情で記者会見を開き、日本国民や政府、関係各所に対して深々と頭を下げて「多大なるご迷惑をおかけして大変申し訳ありません」と涙ながらに謝罪を繰り返しました。テロリストに向けて息子の命乞いをする映像は、見る者の胸を締め付ける痛ましいものでした。
被害者の家族がここまで頭を下げなければならない社会の空気に対しては、海外メディアから「なぜ被害者の家族が謝罪を強いられるのか」という強い違和感と疑問が投げかけられました。個人と国家の境界線、そして同調圧力に屈しやすい日本社会の病理が露呈した象徴的な出来事でした。