写真家・篠山紀信という稀代のアーティストは、被写体が持つ「時代の空気」を可視化することにかけて天才的だった。樋口可南子、宮沢りえ、そして水沢アキ。彼が切り取った女性たちの姿は、常にその時代の美意識や倫理観を揺さぶる試みであった。
中でも水沢アキは、篠山にとって「最も生の感情をぶつけ合える特別なキャンバス」であったのかもしれない。完璧にポーズを決められた美しさではなく、ふとした表情の崩れ、怒り、惑い、官能——そうした人間の泥臭いエモーションを、篠山のカメラは容赦なくフィルムに焼き付けた。彼女の存在なくして、昭和・平成の「写真集ブーム」の深度を語ることはできない。