アルファポリスから刊行された原作小説(著:しき)と、アルファポリス コミックス版(作画:蓮見ナツメ)には、メディアの特性を活かした明確な演出の違いが存在します。原作小説はセシルの独白(観察日記形式)を軸に心理戦の深層が緻密に綴られており、文字媒体ならではの冷徹な思考プロセスと情緒の機微が堪能できる仕上がりです。
一方、蓮見ナツメ氏によるコミカライズ版は、バーティアの百変の表情(変顔から至高の照れ顔まで)を視覚化することで、コメディとしての瞬発力と愛らしさを劇的に跳ね上げました。難解になりがちな宮廷内の政治的駆け引きや裏工作のパートも、テンポの良いコマ割りと視線誘導によって極めて明快に整理されています。
漫画版における最大の功績は、セシルの「無表情な笑顔」の奥にある底知れなさと、バーティアに対する眼差しの変化を視覚情報として克明に描き出した点にあります。原作のテキストから受ける知的な印象を損なうことなく、エンターテインメントとしての間口を大きく広げたメディアミックスの成功例と言えます。