ピクサー作品の真骨頂は、荒唐無稽なファンタジーに見える設定を支える徹底的な現実取材にあります。本作に登場する舞台や美術には、目を見張る実在のモデルが存在します。
立ち退きを拒んだ女性|シアトルの「エディス・メイスフィールド邸」
商業開発地区のど真ん中に孤立して建つカールの家は、米ワシントン州シアトルに実在したエディス・メイスフィールド邸を彷彿とさせます。2006年、巨大なショッピングモールの建設が進む中、当時80代の女性エディス・メイスフィールドは100万ドル(当時のレートで1億円以上)の買収提案を毅然と断り、築100年以上の小さな生家に住み続けました。
映画の企画自体は彼女のニュースが広く知られる前から進行していましたが、開発の波に抗い愛着のある家を守るその姿はカールの境遇と完全に重なり合い、映画公開時にはディズニーがこの実在の家屋に風船を結びつけるプロモーションを実施したほどです。
雲海にそびえる異世界|ベネズエラ・ギアナ高地のテプイ
目的地「パラダイス・フォール」のモデルとなったのは、南米ベネズエラ、ブラジル、ガイアナの国境付近に広がるギアナ高地のカナイマ国立公園です。切り立った断崖絶壁を持つテーブル状の山「テプイ(ロライマ山やアウヤンテプイ)」、そして落差979メートルを誇る世界最大の滝「エンジェルフォール」が景観のベースになっています。
監督やアートディレクター陣は実際にギアナ高地へ過酷なトレッキング遠征を敢行。ヘリコプターや徒歩で現地へ赴き、独特の岩肌の質感、霧が立ち込める大気の湿度、そこにしか自生しない固有の植物などをスケッチ・採集しました。この命がけのフィールドワークが、ファンタジックな飛行艇や風船の旅に圧倒的な説得力を与えています。